第344話 こういうのも呉越同舟というのだろうか

(止めると言うがの)


 と、俺の中で「ヤツ」は嘲笑した。


(そもそもユーマは何故に勇者ノヴァ斯様かような駄々をこねておるか分かっておるかの?)


 知らん。わからん。馬鹿なところもあるが、ノヴァは基本的には正直で真面目、勤勉な人間だと、俺は評価している。こういう場で上位者に歯向かうというのはちょっと想像できない。何か理由があるとするなら……、エリザヴェートか。


しかり然り)

 

 などとやっている間にもノヴァとヴィクトールの雰囲気は悪化の一途を辿っていた。一触即発。睨み合いはいつしか暴発の危険すら孕んでいるように感じられた。


「やめろお前ら。一旦落ち着け」


 うっかり斬り合いとかはじめられたらしこたま困ってしまう俺は、ふたりの間に割って入った。


「ノヴァ、勇者らしく――違うな。お前らしくないんじゃないか。ちょっと冷静になれよ。そんでヴィクトール、お前はもう少し言葉を選べ。ノヴァが反発するのも仕方ないぞ。別にノヴァの記憶を奪おうってわけでもないんだろ?」


 ノヴァとヴィクトールは、「う」とか「ぬ」とか呻いた。


「王国を支えるべきお前らが仲違いしても帝国しか得しないぞ。そんなんだったらエリザヴェートに王位譲ってやれよ」

「ユーマ殿……」

「我が英雄」

「なんだって俺がこんなことをいちいち言わないといかんのだ。俺は探偵でも相談役でもない、ただの宿屋の主人だぞ」


 うんざり顔で俺が告げると、その場にいる全員が異口同音に「ただのじゃないだろう」と口を揃えたのだった。


 ……こういう時だけ仲良いなお前ら。

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