第343話 勇者は抗い、死霊術師が嗤う

 ヴィクトールの下命に、


「――ねます」


 ノヴァは小声で応じた。

 おいおいやめろ。何言ってるんだお前。


「よく聞こえなかった。なんと言ったかね?」

「いたしかねます、と申しました」


 あーあ、明言したよこいつは。

 この期に及んでどうして事態をかき回すんだ。


(くっくっく)


 お前は呑気に笑ってられていいよな……。



「……どういうつもりかね、赤の勇者」

「忘れることなど、できようはずがありませんので。ヴィクトール殿下」

「……ほう?」

「今宵のエリザ様の言葉も、お姿も、私は忘れることはできません」


(くっくっく)


 毅然とした態度のノヴァを見て、「ヤツ」は笑っていた。何がそんなに楽しいのか俺にはわからないが。


 ヴィクトールにもノヴァが反発する意味がわからないらしい。

 あいつにしては珍しく、表情に戸惑いが浮かんでいた。


「……たとえば、命を落とすことになってもかい?」

「死ねと仰るのですか」

「必要とあらば、それを命じることを厭わないよ」

「左様ですか」


(くっく)


 いや笑ってる場合じゃあないだろ。

 止めないと。止める? どっちを? どうやって?


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