第342話 罪と罰、光と影


 まあ、エリザヴェートが王位に就くことはなくなったわけだが――


 この王女の処遇はどうするんだ?


「ヴィクトール」

「何かな、我らが英雄」

「その呼び方やめろ」

「それで?」

「ちっ。エリザヴェート殿下の始末をどうつけるつもりか聞いておきたい」

「ふむ。そのことかね」


 未遂とはいえ王位簒奪を企て、あまつさえ近衛騎士ひとりの命を奪ったのだ。

 

「まあ、継承権剥奪はしないでいいだろうね。当分の間蟄居ちっきょかな」

謹慎程度そんなもん済むイイのか」

「エリザヴェートは民に好かれているからね。今回の一件がおいそれと公表できない以上、厳罰を以てあたるというわけにもいかない。何も告げずに大きな処分をしては民の心が離れてしまうだろうからね」

「なるほどね」


 理由は好かんが、為政者らしいといえばらしい判断だ。

 こいつからするとエリザヴェートにはまだ利用価値があるのだろう。妹だから、といった理由で甘い罰を下すよりはまだマシ、か? どうだろうか。


「イグナイトも、いいね」

「……エリザヴェートへのご厚情、感謝致します」


 おや、イグナイトの方が人情家か。

 意外というほどでもないが、少々驚いた。

 

 それからヴィクトールは最後にノヴァを見やり、


「赤の勇者、今宵の出来事は全て忘れるように」


 事務的な口調で命令したのだった。

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