第341話 愛の在り処、心の在り処

 ――で、エリザヴェートは誰を?


(えっ)


 えっ。

 なんか変なことを言っただろうか。


(ユーマよ。お主、そういうとこじゃぞ……。まあよい、直接聞けばよかろう)


 言われんでもそうする。


「エリザヴェート殿下の愛するものとは一体――?」


 俺の問いに、エリザヴェートは小首を傾げてみせた。

 俺を含めた誰もがエリザヴェートの答えに注目している中、彼女はごく当たり前に、天気の話をするかのように、

 

「私はこの国の者が、自身が望んだ姿でいられるようにしたかったのです」


 と言った。

 自身の望んだ姿、か。


 ヴィクトールとイグナイトは怪訝な表情を浮かべただけだったが、赤の勇者ノヴァは違った。何かに気付いたように声を上げていた。


「エリザ様、もしや」

「どうかしまして?」

「いえ、あの、その、エリザ様の願いは――」

「ノヴァに勇者を辞めさせたいのもそのうちのひとつです。家に縛られるなど愚かしいことです」


 見つめ合うエリザヴェートとノヴァ。

 ふたりが何を考えているか、結局俺にはさっぱりわからない。


「――王族は? エリザヴェート殿下はどうなんだ?」


(ユーマは本当に空気読まぬよなあ)


 知るか。

 わからないだから聞くしかないだろう。


「私が王位に就けたならば、私の代で王位を返上し国の形を変えていたでしょう」


 なんのてらいもなくにっこりと笑って、シュトルムガルド王国第三王位継承権者はそう告げたのだった。


 正気だ。

 全くの正気。

 ただ、正気で狂っている。

 まともな王族の発想じゃない。




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