第340話 人は簡単に狂うという言説

「ヤツ」にアホ認定されてしまった。

 うーむ。

 じゃあ、エリザヴェートの言う「愛するもの」っていうのは……。


(人、じゃろうな。普通に。いや、王族としては異常かもしれんがの)


 人、か。


(なんじゃな? ユーマは人を好いたことはないのか?)


 お前に呼ばれてから金輪際そんな暇は無かったぞ。


(ならば此方に来る前はどうかの)


 ――なくはない。

 俺だっていい歳した大人だ。色恋のひとつやふたつ経験はある。

 あるが。


 国をひっくり返そうというほどの愛憎なんてものは、ついぞ記憶にない。


(平和な国だったのだな)


 どうだろうか。まあ、異世界こっちよりは平和に違いない。


(そんなユーマは知らぬであろうがの、人の心などというものは簡単に狂うものじゃよ。正気と狂気の境目は曖昧にできておる。それを認知するのは個人の知覚じゃから余計にの)


 ……お前も狂ってるのか?


(くっくっく。はてさて、どうかのう)

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