第316話 正道の構え、邪道の構え

「互いに寸止めで。特にノヴァは気を付けるように」

「はい……」

「勝敗の裁定は私が下すということで、よろしいですかエリザヴェート殿下」

「勿論ですわ」

「では、はじめっ」


 騎士長の号令で、私とノヴァの実戦形式の稽古ははじまりました。


 私は教わった通りに木剣を両手で持って体の正面で構えました。

 いわゆる正眼の構え。


「え?」


 対するノヴァは、右足を前に出し半身――というのは後で知りました――に構えていました。右手だけで剣を持ち、だらりと提げて剣先は地面に触れる程。


「ノヴァ、真面目にやらんか!」

「はい、いいえ騎士長。私は真剣です……」


 言葉の通り、ノヴァの目は真剣そのものでした。

 私の目には隙だらけに見えるのですが――蛇に睨まれた蛙のように――思うように体が動かせないでいました。正体不明の違和感を無視して大きく踏み込み、


「やあっ!」


 正面から仕掛けた、最速最短の斬撃は教わった通りの軌道で――



っ!?」


 ――次の瞬間地面に突き刺さっていました。

 地面を撃った衝撃で手が痺れます。

 そして、


「失礼します、殿下」


 という言葉と共に、喉元にはノヴァの木剣が突きつけられていました。


「それまで!」


 騎士長の裁定が下されても、私には何が起こったのかまったくわかりませんでした。

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