第317話 才能と努力

「失礼いたします」


 と、軽く会釈をしてノヴァは遠ざかっていきました。私はすっかり息が上がってしまっていて、両手を膝についているというのに、彼女は訓練場の隅で、黙々と素振りをはじめていました。


「あの、騎士長?」

「はい、エリザヴェート殿下」

「あの子――ノヴァはどうしてあんなにも強いのです?」


 最初から最後まで何が起きたか分からないままに負けてしまったので、悔しさよりも感心する気持ちが先にありました。


「はい、エリザヴェート殿下。いいえ、あの子ノヴァは剣の才には全く恵まれておりません」

「え?」


 私は自分の耳を疑いました。

 才能が、無い? あれで?


「あの子には才能などないのです」

「……あんなに強いのに?」

「殿下、無礼を承知で申し上げます。昨日今日剣の稽古をしはじめた相手に遅れを取るような者に我が家名ステルファンを名乗ることなど許されません。それがたとえ子供であっても」


 強い、厳しい口調でした。

 王家の剣であり、国の盾であるステルファンの矜持が感じられました。


「そう、ですか」

「それでも訓練次第で、家名の末席に名を連ねても恥じることのない程度の技量にはなるでしょう」

「――あの、剣の才がないことをノヴァには」

「とうに伝えております」

「それなのにあんなに一生懸命剣を振るのですね」

「はい」


 才能が無いと言われてなお、剣を振り続け、私には想像もつかない技量に至っている同い年の女の子に、私はすこぶる興味を持ったのです。

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