第311話 動機クエスチョン
エリザヴェートは俺の言葉を正面から受け止め、諦観と愉悦の混ざり合った複雑な笑みを浮かべていた。
「とんだ名探偵でらっしゃいますわね、ユーマ様。ただの宿屋の
降伏宣言に等しい愚痴をこぼす。
「ユーマ様に依頼するしない以前に、そもそもノヴァの願いを聞き入れて営業許可証など発行しなければ良かったですわね」
「それならそれでノヴァを連れて俺は王都に乗り込んでたけどな」
「ふふっ、ではどちらにせよ駄目ですね」
でも、その場合は結果が全然違ったかもしれない。
俺は営業許可だけ取り付けて王都を離れていた可能性が高いだろうから。
それはそれとして、
「エリザヴェート殿下が犯人だってことはわかった。けど、ひとつわからないことがある」
「なんでしょうか? 答えられるものであれば、お答えしますわよ、名探偵さん」
「動機だ。どうして十年もかけて、王位の
俺の人物評が誤っているかもだけしれないが、にしても動機は全然わからなかった。エリザヴェートは目を伏せて長く深い溜息をついた。
そして、沈黙の果てに、
「――愛するもののためですわ」
と言った。
愛国心の発露、か。
物騒な愛国心もあったものだが。
「ユーマ様、帝国は以前にも我が国に侵攻してきたことがあるのです」
「……10年前だったか」
「良くご存知ですわね」
「ノヴァが教えてくれたよ」
「そうですのね……」
エリザヴェートはちらりと赤の勇者へ視線を遣り、
「10年前のあの日まで、私は呑気で少しお転婆なお姫様でしたわ」
遥か過去へと思いを馳せるように、虚空を眺めるのだった――
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