【幕間】

弟殿下は実妹がわからない

 この私――イグナイト・エルク・シュトルムガルドは目の前で進んでいく事態に、正直に言えば殆ど全くついていけていなかった。


 宿屋の男に呼び出され、何が始まるかと思えば犯人捜し。兄上ヴィクトールが犯人に決まっているだろうという私の認識は一瞬でひっくり返された。


 ――エリザヴェートが? 狂言?


 こいつは一体何を言っているのだ、兄上に金でも掴まされたのか、などと訝しんでいる暇もなく、次々と証拠が積み上げっていく様子は私のこれまでの価値観や判断をことごとく覆すものだった。


 エリザヴェートは10年も前から王位を狙っていた。

 そんな素振りも露程も気付かせずに、深く、静かに、策を進めていた。

 今、私の眼前に居るのは、妹の形をしたのように感じられた。


 王位の簒奪者。


 真っ当な手管、などと私が言えた義理ではないが、それでもおうしいそうとは思っていなかった。それをはじめから計画していたのだ。


 エリザヴェートは、計画が瓦解したことを悔しがるでもなく、虚空に視線を彷徨わせていた。妹がこの瞬間何を考えているのか、私の理解など全く及ぶべくもなかったのである。

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