第310話 殺意クッキング

「証拠なら記録台帳があったぞ」


 俺は機先を制して告げた。

 料理人の入れ替わりはきちんと台帳に記載されていた。

 ここ数日はその台帳を見ながら、


「王宮に出入りしたことのある料理人の店を片っ端から当たって来た。10年分だ。胸やけするまで食べ続けて確認したぞ」

「確認?」

「ああ、王宮に勤めていた時期が最近であればあるほど、味付けが濃い。昔いた料理人の味付けはあっさりしたもんだった。これもまあ、後日調査してくれ」

「そうしましょう」


 と、ヴィクトールが頷いた。



 ――人は刺激に慣れるものだ。


 ほんの僅かな、些細な変化であれば気付かない。

 勝手に環境に順応してしまうのだ。

 今の王宮の料理の濃い味付けに気付くのは最近働き始めたばかりの連中だろうし、そんな新入りの言葉をいちいち取り次ぐ者もいるまい。


 年寄りを殺すのは簡単だ。

 毎日少しずつ、味噌汁の味を濃くしてやればいい。一日に0.01グラムずつ、塩分を足してやればいい。塩分の過剰摂取は動脈硬化や心肥大の要因になる。俺の親戚のオッサンが食事の都度死ぬほど漬物を食べまくって体を悪くしたことがある。アレをバレないようにすればいいわけだ。


 そんなことまでエリザヴェートが知ってたかどうかは知らないし、元の世界あっちの常識が異世界で通じるかもわからないが、実際に王は体調を崩し臥せているのだから、効いたのだろう。


「さて、弁明はありますか、エリザヴェート殿下」

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