第309話 匙加減ソルトシェイカー


「断言に足る証拠はありますか、我らが英雄」


 だからその呼び方やめろ。


「勿論ある。といっても傍証ぼうしょうだがな。だいたい10年くらい前から、王宮の料理人が短い期間スパンでコロコロコロコロ変わってるだろう。違うか?」


 ヴィクトールとイグナイトが顔を見合わせた。

 一方でエリザヴェートは平坦な表情で無言を貫いている。


「そしてその料理人は漏れなく全員、エリザヴェートが連れてきた者のはず」

「……兄上」

「そうだね。我らが英雄の言う通りだ」

「エリザヴェートがちょくちょく王宮を抜け出して街に繰り出していたのは、民草の声を聴くためでも、街の状況をつぶさに確認するためでもない。自分にとって都合のいい味付けをする料理人を見つけるためだ」


 都合のいい味付けとはどういう味付けか。


「話はちょっと変わるが、王宮に来た初日にな、俺は食堂でメシを食う機会があった。――美味かったよ。味は滅茶苦茶に濃かったけどな」


「味が」

「濃い?」


 兄殿下たちは僅かに首を傾げた。

 どうやららしい。


「エリザヴェート殿下、貴女は王宮の料理の味付けを、10年かけて少しずつ濃く、塩辛くしていったのでしょう? 王の体調を崩すために。長い長い時間をかけて」

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