第297話 不支持エビデンス

「エリザヴェートが……だと?」


 騎士の魂からの証言に、イグナイトは信じられないといった表情だった。

 一方でヴィクトールは無表情でただ、魂の蒼焔そうえんを眺めている。

 そして、


出鱈目でたらめです!」


 名指しされたエリザヴェートは異議を唱える。


「私は刃物など持ったこともございません。手に入れる手段も――」


 言葉を遮ったのは「ヤツ」だった。


「――無くはない、であろ? エリザヴェート、お主度々王宮を抜け出して城下で遊んでおったろうに。そもそも儂のところムラノヴォルタまで辿り着いたのも抜け道を知っておったからじゃろ? ん?」


「ヤツ」は饒舌に、念入りにエリザヴェートの反論を叩き潰しにかかる。


「どこの店でどんな理由をつけて買ったのかまでは知らんがな、王都の古道具を虱潰しらみつぶしに総当たりすれば、凶器の刃物を売り買いした店はおのずと定まるじゃろうよ。実際どうなるかの保証まではできんがの」


「後程、総当たりさせましょう」


 ヴィクトールは「ヤツ」の意見を呑んだ。

 つまり死者審問インクエストの結果を支持した、ということだ。


「兄上?」


 イグナイトが意外そうにしていたのが意外だった。

 自分が容疑者から外れるのにどうしてそんな態度なんだ?


「その者の怪しげな術を信用すると言うのですか!?」


 ……あー、はいソウデスカ。ブレないなイグナイト。


「イグナイト、我らが英雄の術を信用できない根拠は何かな。好悪の感情以外で説明できるならしてみたまえ」

「…………特には」


 ないんかい!

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