第298話 兄妹愛トリックスター

「確たる理由がないのであれば、我らが英雄の死霊術ネクロマンシーを信じましょう」

「……む。兄上がそのように仰せならば」


 イグナイトは不承不承、といった体だ。

 しかし、

 

「理由が無いと言うのでしたら――」


 エリザヴェートはなおも言い募る。


「――私が近衛騎士を、こ、殺す理由もございませんでしょう!?」


 その主張に兄王子たちは拍子抜けするほどあっさりと頷いた。


「確かに」

「それはそうだ」


 優しい兄達だな、と俺は思った。

 同時に、愚かだな、とも思う。

 妹のことを理解していない。


「その点について説明はできますか、我らが英雄よ」


 だからその呼び方やめろヴィクトール。

 ミラベルは何度目かの笑みを浮かべ、


「簡単なことじゃよ」


 ワトソン君、とでも続けそうな口ぶりでこう言った。


「エリザヴェートは兄王子ふたりを仲違いさせるために狂言暗殺などという真似をしでかしたのよ。おふたりもよくよく妹御いもうとごを信じ切っておられる。いやはや、見事に演じきったものよな」

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