第296話 激白デスナイト


 指先の青白い炎は、大きくゆらめき人型を取った。

 騎士鎧の、男。


 彼に対して「ヤツ」は恭しく礼をした。


「さて、まずは貴公の眠りを妨げたことを詫びよう。志ありし騎士よ」

『……構いま……せん』

「加えて、以前に問うたこと、重ねて問うことを赦して欲しい」

『王家のた……めに……、なるので……あれば』

「――貴公の忠心に感謝しよう」


 最近知ったのだが「ヤツ」は死者のに対しては非常に真摯に接する時がある。生者を相手にする時よりもずっと丁寧だ。一方で先日のようにゾンビの大群を創り出してゲラゲラ笑ったりもするので、ただの分裂症なのか「ヤツ」なりの理屈があるのかはよく分からない。


 王位継承権者の三人は固唾を飲んで見守っている。


「では改めて問おう。あの夜、貴公が使命にじゅんじた顛末てんまつを――」


 亡霊の騎士は、途切れ途切れに語り出した。


『私はあの日……、エリザヴェート様……の、護衛の任に……ついていた。何も無い夜だった……。エリザヴェート様の……悲鳴を聞くまでは……』


 何事も無い夜、だった。


『無礼を承知で……私は……部屋に、踏み込んだ……』

 

 その時までは。


『そして……ドアの影に潜んでいた人物……に、背後から……首を刺されたのだ……』


「貴公を殺した者は誰かの」


「ヤツ」の問いに、亡霊の騎士は僅かに躊躇った。かのように見えた。それでも彼は決定的な言葉を告げた。


『私は死の間際……この目で見た……。ナイフを握る、エリザヴェート様の御姿を……』

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