第271話 商人は獣人の選択を見定める

「クラリッサ! どうデスカ?」


 リュカは目をキラッキラさせてアタシを見てくる。

 うおっ、まぶしっ。


 アタシも駆け出しの頃にはこんな顔で買い物してたんだろうか?

 ちょっと思い出せない。

 ついでに思い出したくないやらかしがズラズラでてきたので、アタシは過去の記憶を辿るのを止めた。


「ん、なんだ? ペンダントか?」

「デス!」


 リュカが得意満面で見せてくれるのは、木彫りのペンダントだった。

 ふたつ一組で組み合わせるとひとつの意匠がはっきりと見て取れる。


「……猫? いや、犬か?」

「違うデスヨ! デュワンゴです!!」


 食い気味に否定された。

 デュワンゴ、ねえ。


 ちら、と露店の店主に視線をやる。

 好々爺こうこうやめいた店主は笑っていた。苦笑い、だろうか。


「気に入ったのか?」

「はいデス!」


 そいつは何より。

 ふたつペアってことは、片方がオッサンかナターシャへの土産になるのだろう。


「で、値段は?」


 まさかこんなチャチな木彫りのペンダントが銅貨2枚もするわけないと思うのだが、


「銅貨2枚きっかりだね」


 今まで黙っていた店主がそう言った。


「予算ぴったりデス!」


 と、リュカは嬉しそう。うーん、これはしょうがないな。

 アタシの出番か。

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