第254話 商人は帝国の過去と今に思いを巡らせる

 獣耳の女の子リュカの駆る馬車――デュワンゴが引いているのに馬車って呼んでいいかはちょっとよくわからない――は王国と帝国の国境線に近づいてきていた。


 国境線と言われても何か目立つ印があるわけでもないし、壁や砦が築かれているわけでもない。兵士が立ってるなんてこともない。知らない人なら知らない間に国を渡っていた、なんてことも全然有りうる。


「リュカ、こっから帝国だ。ちっと気を引き締めろよ」

「そうなんデス?」


 呑気なものである。

 帝国と王国はほとんど常に緊張状態だ。

 どっちかというと帝国が王国にちょっかいをかけている。


 帝国は周囲の小国を併呑へいどんして肥大化した軍事国家だから、今でも外に目を向けて、領土拡大を虎視眈々と狙っている。


 北は大陸の端まで支配下に置いたし、西は海。だから後は南と東だ。

 東国への出征は確か歴代の将軍クラスが失敗しまくってて、今の帝国軍のお偉方も二の舞三の舞は御免だと思ってるらしい。


 だから南。


 連中はシュトルムガルド王国を狙っているんだ。


「とかってこと、全然知らないんだろうなあアンタは」

「なんデス? あっ、クラリッサ! あそこで何か焼いてるデスヨ!」

「……食べたい?」

「はいデス! 焼きたてきっと美味しいデス!!」


 仕方ない。必要経費リュカの食費として、あとでチビ女アイに請求しよう。

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