第253話 商人と獣人の対等な関係

 獣耳の女の子リュカは言う。


「ユーマもアイも、ナターシャもノヴァも“さん”とか付けて呼んだことないです」

チビ女アイどころか赤の勇者まで呼び捨てにしてんのかよ……」


 戦慄を覚えつつ、さりとて退くわけにもいかず、


「と・に・か・く! アタシのことはクラリッサさん、って呼べ。いいな!?」

「じゃあ、クラリッサはジブンのことをリュカさんて呼ぶデス?」

「なんでだよ!」

「トリヒキニオケルカンケイハタイトウデアルベシってユーマが言ってたデス。ジブンはぜんぜん意味わからないデスケド、取引相手に何か言われたら唱えろ、って言われてるデス」


 取引における関係は対等であるべし、か。

 甘い甘い、理想のオハナシだな。

 アタシはそんな取引、数えるほどしかしたことねえ。足元を見るか足元を見られるか。生き馬の目を抜く世界が商人の居場所だ。


 でも、あのオッサンはいつもその甘ったるい取引を持ち掛けてくる。

 今回はチビ女アイが言い出したことだが、同じことだ。


「――わかった。呼び捨てでいいよ、リュカ」

「はいデス、クラリッサ!!」


 やれやれ。

 この子の笑顔を見てるとつい毒気を抜かれちゃうな、とアタシは思った。

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