間章

第247話 行商人の珍道中、の理由

 アタシ――クラリッサは街道を北へと進んでいた。

 今回は馬車ではなくて、いや、馬車は馬車なんだけど、それを引いているのが、


「ばうっ!」


 なんか、デカい獣――デュワンゴとか言う種族らしい――なのだった。


「シュラ、いつもより嬉しそうデスヨ!」


 御者台のアタシの隣でけらけらと獣耳の子供が笑っている。

 あのオッサンの宿屋ところのリュカって名前の女の子だ。



 ――ちょいと国境越えて帝国の町で仕入れをするだけのつもりがどうしてこうなったのかというと、オッサンの顔を見に……もとい、御用聞きに行ったんだ。そしたらオッサンは不在で、代わりにあのクッソ不愛想なチビ女アイはアタシにこう言ったんだ。


「それでは護衛をつけましょう」


 護衛? アタシに? なんで?

 そんな疑問を抱いている間にも話はとんとん拍子に進んでいく。


「リュカ」

「はいデスヨ?」

「貴方の今日の仕事はお休みで結構です――」

「わぁい! やったーデスヨー!!」

「――話は最後まで聞きなさい。お休みと言っておいて済みませんが、デュワンゴシュラと一緒に、こちらのクラリッサの護衛をお願いできますか? 買い物の手伝いだと思ってください」

「はいデスヨ! お出かけ楽しみデス!」


 勝手に決めんなよ!


「ちょっ、護衛なんてそんな大げさなんだよ!」


 だがチビ女はアタシの話など聞き入れはしない。


「大袈裟ではありません。帝国と王国――ひいては我々は緊張状態にあります。国境沿いの小さな町でも帝国は帝国です」


「ぐっ」


「どんな危険があるやも知れません。クラリッサが傷つけばユーマ様支配人はきっと悲しむでしょう」


「ぐぬぬっ」


 そんな風に言われると反論できねえじゃねーか。

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