第246話 不離一体の俺と「ヤツ」


(とまあ、冗談はさておき)


 と「ヤツ」は言う。

 冗談だったのかよ。さっきの“都合のいい器”発言は!


(儂も、儂の一族も死霊術師ネクロマンサーなどと忌み嫌われてきたがの、儂らは別になーんとも思っておらなんだよ)


 フッ、と「ヤツ」は笑った。

 いつもの嘲笑ではなく、何かを懐かしむような笑みに思えた。


(儂らはずっと、ずっっと長い歳月をかけて、生と死の狭間にある何かを探求し続けておったのじゃよ。死霊魔術ネクロマンシーはその過程で生まれた副産物に過ぎん)


「なあ、ミラベル」


(なんじゃ?)


「お前の――いや、なんでもない」


 家族はどうしてるんだ、と聞こうとしてやめた。

 聞くべきではないと途中で気付いたから。


 だが、もはや切り離せないほどに俺の魂と絡み合った「ヤツ」のそれは、俺の心情を汲み取っていた。


(もうおらぬ。みな、死んだ。一人残らず殺されたわ。儂には夫も子もおらなんだからの――)


「ヤツ」はいっそ清々しい口調でこう告げた。


(――正真正銘、儂がアンクヤードの一族最後のひとりじゃ)


「そうかい」


(だからこそ、儂は滅ぶわけにはいかなかったのじゃ。、器を見つけなければならなんだ)


「それで見つけた都合のいい器が、俺ってことね」


(ふふっ、儂と出逢った時のこと、懐かしく思わんか?)


「馬っ鹿。まだお前と一緒になってそんなに経ってねえよ」


(まだ、とな)


「あん?」


(まだまだ、この先も付き合うてくれるのじゃな、ユーマよ) 


 そんな意味じゃない、と言い掛け、俺は思い直す。


「そうだな。ミラベル、お前も最後まで俺に付き合ってもらうぞ」


(ほう?)


「とりあえずは王位継承問題を片付けて、それから対帝国だ。一回でも負けたらそこで終わりの生存競争だぞ。どうだ? 付き合わないとは言わせないからな」


 俺の言葉に「ヤツ」は呵呵大笑かかたいしょう


(良い。良いな! 面白いぞ。流石に、我が器たるだけのことはある!!)


「……褒めてるのか、ソレ」


(最上級の賞賛のつもりじゃが?)


 そいつは結構。

 それじゃ、今後ともよろしく頼む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る