第240話 商人の嘘は神もお見逃しになるとは言うが


「どうか、最後まで私たちに付き合っていただけませんか」


 ヴィクトールは図々しくも、そんなことをのたまった。

 どんだけツラの皮が厚いんだ。


「最後だと?」


 最後っていつのことだ。納期の決まってない仕事は永遠にはじまらないか永遠に終わらないかと相場が決まってる。


「ふざけるな。最後なんて曖昧な期間、付き合ってられるか。こっちにも都合があるんだ。――だから、帝国との戦いだけだ。たとえば、南の小国だかなんだかの小競り合いに王国が巻き込まれたことがあったとしても、一切俺は関知しない」


 本当は帝国にさえ関わりたいくないのだが。

 落としどころとしてはここらが限界だろうと思う。


「結構ですよ」


 ヴィクトールは目を弓なりに細め、口元を綻ばせた。

 どうやら俺の回答に満足したらしい。

 最初に無理な依頼をして、ハードルを下げた答えで納得する。敏腕営業の常套手段だ。王族何ぞやめて、商人にでもなればいいのだ、こいつは。きっと大儲けできることだろう。


 それにしても、だ。


 ――もしかして、ヴィクトールこそが一連のお家騒動の黒幕なんじゃないか?


 と、俺はふと思ったのだった。

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