第239話 鵜の真似をする烏になれ、と

「違う! 俺はそんな存在モノじゃない!! ただの、ただの宿屋の支配人だ!!!」


 俺の声が謁見の間に響き渡った。どよめく騎士や大臣、イグナイトをよそにヴィクトールだけが動じていない。冷静に……違うな、冷淡に、それでいて朗らかに、口を笑みの形にしてこう言った。


「ユーマ・サナダ、君がいくらそう主張したところで、帝国軍は絶対に君を放っておいてくれはしない。我がシュトルムガルド王国を滅ぼしたとしても、もし君が見つからなければあらゆる場所を虱潰しらみつぶしに蹂躙じゅうりんし、探し回るでしょうね。

 屍の山を築いた先で、君の大切にしている、宿を見つけることになるでしょう。そして――、とまあ私はそんな最悪の状況を想像してしまうわけです。恐ろしいことですね」


「……ヴィクトール!」


 俺は尊称を付けて呼ぶことをを付け忘れるほど沸騰していた。

 ヴィクトール・ミゲイラ・シュトルムガルド!

 こいつはとんだ食わせ者だった!!

 くそっ、俺もつくづく人を見る目が無いな!


「私も本当はこんなことを言いたくないのですよ」


 ほざくな。

 さっきイグナイトが「貴様は王国を脅迫している」とか言っていたが、お前の方こそ俺を脅しているだろうが。


 もういいわかった。

 これ以上の議論は無駄だろう。


 さっきは口が滑って尊称をつけそこねたが、この腹黒クソ王子には金輪際敬語を使うことをやめよう、と俺は俺の中で決めつけた。


 第一王子殿下ヴィクトール宿屋の主人この俺に英雄の真似事をしろ、ってわけだ。

 やりたくはない。

 やりたくはないが――


「――否応無し、ってわけだ」

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