第236話 鶴の一声というやつ

 ヴィクトールは温和な口調で告げてきた。


「私としては、君を罪に問うつもりはありませんよ、死霊術師ネクロマンサーくん」


 私としては、ね。

 で、他の連中はどうだろうな。


「兄上!?」


 ほらな。

 案の定、イグナイトが声を荒げた。


「何を仰っているのですか!」

「イグナイト、君の気持ちもよくわかるよ。でもね――」


 玉座を挟んで食って掛かる弟を諭すように両手をあげ、ヴィクトールはそこで一度言葉を切った。どうどう、と犬でもあやしてるような仕草だ。

 犬か……。犬といえば、リュカのやつは元気にやってるだろうか。おっと、ホームシックみたいになってる場合じゃない。


 ヴィクトールはイグナイトを落ち着かせてから、俺を見て、その後、広間に居る全員を見渡し宣言した。


「今の我が国に、帝国以外を敵に回している余裕はないんだよ。それくらいは、皆、わかるよね?」


 発された言葉自体は柔らかい口調だった。

 けれど、第一王位継承権者らしい有無を言わせぬ圧があった。

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