第235話 目は心の鏡、って言葉もあるらしい

  俺の、恫喝めいた問いかけに、謁見の間に居る全員が答えを返せずにいた。

 

 いや、ひとり返答をした男がいた。

 第二王子イグナイトだ。


「貴様! 我々を――シュトルムガルド王国を脅しているつもりか!? もしそうならば、この私自ら成敗してやる!」

 

 イグナイトは俺を真っ直ぐに見据えていた。

 その双眸は僅かな畏れを滲ませながらも、怒りと負けん気――そしておそらくだが、愛国心のようなものが負の感情を抑え込んでいた。強い意志の光をたたえた眼に、俺は正直言って驚いた。驚いたのだ。


 質問に質問を返すのやめろ、とは思うものの、俺はイグナイトのことを見直していた。初対面のコイツは居丈高で、どこまでも尊大な態度で人を見下して、人伝手ひとづてに話を聞けばどうやら貴族第一主義で、挙句になんだかコソコソ怪しい動きをしているという噂もある、ロクでもない人物であったのだ。


 だが、昨日の「ヤツ」が起こした惨状を聞いた後で、その言葉を放つのは、なまなかな胆力でできることではない。


「脅してるつもりはないですよ、イグナイト殿下」


 俺が喋り方を寧語にする程度にはコイツも国を案じる王族なのだ、と分かった。

 俺にはそれが何故だか嬉しかった。つい、少しだけ笑ってしまうほどに。


「何をヘラヘラしているのだ!」


 アンタのことを見直したからだよ。自分の人を見る目の無さに笑っちまったんだ、とは言えないし言いたくないので、俺は表情を引き締めた。


「俺はこの場で何を話したいのか、それを問うているのですよ、殿下」


 改めて問い掛けると、


「それについては私から話させてもらいたい――」


 今まで沈黙を貫いていた第一王子ヴィクトールが口を開いたのだった。

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