第234話 前轍を踏む、なんてことのないようにして欲しい

「――昨日の戦場はそんな有様だったわけで、俺にとっては選択肢などなかった。


「なるほど」という声と「しかしそれでもあれは」という声が俺の耳に届く。

 まあ、少しは賛意を得られたのは良かった、と思いつつ俺は続けた。

 

「俺が帝国軍を押し返さなければ、十年前以上の被害が出ていたと断言できるぞ」


 十年前。

 ホテルの事務所でノヴァから聞かされた、帝国の奇襲。

 あれでノヴァの人生は大きく変わった。パン屋になりたいというささやかな夢を抱いていた少女は騎士になり、魔剣に選ばれ、赤の勇者になった。


 それと同じか、それ以上のことが起きることを俺は容認できない。

 まあ、俺個人としても王国に滅んでもらっては困る。営業許可証は俺の後ろ盾でもあるのだから。


「ところで、ひとつ聞きたいんだがこの場は何を話しあう場だ?」


 俺は敢えて低い声で問い掛け、俺を取り囲む王族、大臣連中、騎士、魔術師、その全員を睨みつけた。


「俺を断罪するというなら、昨日の帝国軍と同じ目に遭うぞ。アンタら全員な」


 俺以外の全員が例外なく息を呑んだ。

 

 俺は俺で心臓バクバクである。

 同じ目に遭う、なんてのはハッタリなのだ。

 大量の死体がなければいけないし、そもそも「ヤツ」がその気にならなければアレはできない。

 第一、俺には、王国と敵対するつもりはない。



 帝国とも敵対したくはなかったけどな……。

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