第227話 “冥府の窓”の開く刻

 彼方には敵の群れがうじゃうじゃおる。

 その手前には人間だったモノの成れの果てが累々としておる。


 アイもおらぬし、赤の勇者もおらぬ。

 味方は王国の守備隊が僅かにあるのみ。

 その弱兵の指揮権すら、無い。


 ユーマがに身体を明け渡したのもむべなるかなといった状況よな。


「くっくっく」


 知らず、儂は嗤っていた。

 鼻腔をくすぐる血の匂い。死の香り。

 いつもいつでも儂の心を滾らせてくれる。たまらんな実際。


 それもそのはず、ユーマに憑いてからこっち、骨と泥でしか死霊魔術を使っておらなんだからな。アイは儂の最高傑作と言って差し支えない存在ではあるが、儂の好みからはちと外れる。いや、アイは素晴らしいがの。


「さて、帝国からの客人を退屈させるのも悪い。そろそろ始めるとしよう」


 儂は両手をゆらりゆらり、と静かな、それでいて一目では理解できぬ複雑な動きで虚空に陣を描いた。


 陣とはこれ即ち魔法陣。

 儂が使う魔法陣なのだから、ソレが何かは当然決まっておる――


「踊れ踊れ

 死人しびとよ踊れ

 生者の手を取り

 輪を成し舞踊おど

 狂気のうたげにえと成れ

 常世とこよを怨嗟で塗り潰せ

 贄が足らねば其処

 手を取る蹴落とす相手を煮え溶かせ贄と化せ


 ――死霊魔術ネクロマンシーよ!!


 詠唱と同時に魔法陣を投射する。

 銃弾によって無残に撒き散らされた血と肉の、直上へ。


瑞々しい死者の饗宴フレッシャーズフェア!!!!」


 魔法陣が術が起動すると、肉片が蠢きはじめた。

 人に似た形を取り、手近な人間――つまり帝国軍へ向かっていく。

 

 発砲音が響く。バタバタと倒れる死人。

 だが、死人は死なない。既に死んでいるからのう。


「くっくっく、これだから生肉を弄るのはやめられん」


 阿鼻叫喚。

 優位に立つ者が一転、死地に落ちる姿は……、何度見ても見飽きぬものよ。


 さあユーマ、此処に地獄を創ろうではないか。

 危急のシュトルムガルド王国を救うためになぁ……!

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