第228話 夜の王は嗤う

 俺――真田悠馬さなだゆうまは、俺自身の内側から外界を

 否、見ることを強要されていたという方が正しい。

 視界は「ヤツ」が見ているものを俺に見せつける。

 目を逸らすことも、まばたきすることさえ俺の意志には許されていない。

「ヤツ」に身体の主導権コントロールを明け渡すとはこういうことなのだ。



「ヤツ」の創り出した死者の群れが帝国軍を蹂躙していく。



 黄泉還よみがえった死者たちはで、実際には人からは程遠い存在だった。手が三本ある者、足に手が生えている者、顔がふたつある者、顔の無い者。

 バラバラになった肉片を適当に繋げて蘇生リアニメイトしたらこうなった、といった様子だった。


 は飛びつき、噛みつき、引きちぎり、喰らい、そして喰らう。

 虐殺された帝国兵もやがて起き上がり、死者の列に加わっていく。


 ――死霊術師ネクロマンサー


 ミラベル・アンクヤードという女の本質は「悪」だ。知っていた。

「ヤツ」が俺を異世界こちらに招き寄せた時から、俺は知っていたはずなのに。ちょろいところもあるし最近はおとなしくしていたので、俺自身甘く見ていたことは否めない。


「ヤツ」の本性は“風”のウェントリアスと対峙した時のそれが最も近いのだろう。


 そして、今。


「ヤツ」は戦場を睥睨へいげいし、


 尊大に、

 けれど寛容に、

 慈愛に満ちた表情で、

 自身が世界の王であるかのように、


 俺の声で甲高く嗤っていた―― 

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