第225話 遠き山に日は落ちて、人は大地を血に染める

 銃兵の列に突っ込んでいった王国の騎兵たちは銃弾の洗礼を受けた。ばたばたと倒れる人馬。残ったのは僅か数騎のみ。突撃衝力は失われているが騎兵の間合い。一矢報いようとした騎兵を待っていたのは、槍襖やりぶすまだった。騎兵は自ら長槍に飛び込む形で全滅した。


「騎兵対策は万全、か……」


 俺はうめく他なかった。

 実際、帝国の布陣は完璧だった。

 二列に分けた銃兵が装填の隙を半減させる。

 更にその後ろに長槍隊を伏せて、討ち漏らした騎兵を刺し貫く。


「戦車――は無理にしても、砲兵隊かなんかで射程外から叩くくらいしかないなコレは。あるいは空爆、はもっと無理か」


 わかっているのは手元にはどちらもない、ということだ。

 

「完全にお手上げなんだが、逃げるわけにもいかんのだよなあ……」


 たまたま居合わせただけであるが、ここで点数稼ぎをしておけば王宮内での俺の発言を無視しづらくなる。はずだ。


(のう、ユーマよ)


 俺のうちで、「ヤツ」が囁いた。


(この場を凌ぐ妙案がひとつあるんじゃがの?)


 笑みを滲ませた口調。

 絶対にロクな案じゃない。

 それでも今は、それに縋るしかないか……。


「教えてくれ。時間が無い」

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