第224話 薄闇の中の火花

 王国の守備隊、その指揮官らしき人物を俺は見つけた。

 馬にまたがり、立派な装飾の胸甲きょうこうをつけている。騎兵だ。おそらく騎士階級の貴族。


 彼を中心に五十名ほどの騎兵が隊列を組んでいる。

 

「次の射撃の後、突撃する!」


 確かに、競走馬の時速は自動車とタメを張るレベルだ。

 装填の隙を突けば或いは。


 だが、俺にはひとつの懸念があった。日本人なら誰もが知っている例のいくさ



 そんな俺の懸念を他所に、射撃音が響く。

 先程と同じく命中するような距離ではない。

 こちらの頭を押さえるのが目的の制圧射。


「突撃ィ!」


 王国騎兵が一斉に駆けだす。

 銃撃音に驚いて数名が既に脱落しているが、委細構わず突撃していく。


 確かに騎兵の突撃衝力は絶大だ。

 人間の群れなど簡単に蹴散らせる。


 弾込め中の銃兵なら尚更。


 一瞬で彼我の距離を埋め、騎兵が迫る。

 その直前。


 装填中の帝国銃兵の背後にいた兵が立ち上がり射撃姿勢を取った。

 薄闇の中で無数の火花が煌めく。


「やっぱり長篠の――」


 俺の呻きは第二射の射撃音に掻き消されたのだった。

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