第214話 姫の短い置き手紙

 エリザヴェートの傍使えらしい女性は、


「書き置きがあったので大事無いとは思うのですが」


 と、何かを諦めたような顔で言った。もはや悟りの境地だな。


「書き置きにはなんと?」

「城下へ、とだけ。あとはノヴァ様をお連れになられる、と」


 ノヴァが一緒ならまあ、何があっても大丈夫だろう。王都というこれ以上無い本拠地ホームで王国屈指の騎士が付いてるんだから対処できなことがある方が問題だ。


「そうですか」


 俺は頬を掻きつつこれからの行動を修正する。エリザヴェートもノヴァもいないなら、俺も今日はこれくらいにして宿に帰るか。

 と考えたがその前に、


「お聞きしてもいいですか?」

「私でお役に立つのでしたら」

「ありがとうございます。率直な意見を伺いたいのですが、エリザヴェート王女殿下はどのような御方ですか?」


 俺のあけすけな問いに、一瞬面食らった表情をしたものの、彼女はすぐに平静を取り戻した。


「お優しい方です」


 と答えた。

 そして少しだけ笑って、


「少々お転婆ですけれど」


 と付け加えたのだった。

 少々、どころではないだろうに、宮仕えの大変さがにじみ出ている。


「今回は特に帰りが遅かったからさぞ心配だったでしょう」

「ええ。近衛が殺害され、姫様は行方不明。姫様に万一のことがあっては、とずいぶん気を揉んだものです。ですのに大層お元気にお戻りになられて、安心したやら呆れたやらで」

「よかったですね」

「ユーマ様のおかげと聞いております。誠にありがとうございます」

「俺は何もしていません。殿下の強運にるところかと。ところでもうひとつ質問なのですが」

「はい、どうぞ」


「エリザヴェート王女殿下を護って名誉の死を遂げた近衛騎士について、詳しく――」

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