第209話 酔いどれ騎士の悪しざまな口調

「情報収集?」

「エリザヴェート王女殿下、だと」

「あの騎士殺しの身内か貴様!」


 まだ日も高いというのにテーブルの上には酒瓶も転がっていた。

 酔っているのだとしても、王族に対して穏やかじゃあない発言だ。


「王女殿下が騎士殺しとはまた物騒な話だ。俺が聞いている事実と少々食い違う。夜番の近衛騎士は王女を逃がすためにその身を盾にしたのではなかったか?」


 俺が質すと、騎士連中は憤懣遣ふんまんやかた無いといった様子で、


「王女殿下はそのように喧伝しているな」

「デニスの仇がいけしゃあしゃあと」


 デニスとは確か亡くなった騎士の名だったはず。

 喧伝などと言われるとは、エリザヴェートは騎士に疎まれている?


「実際には違うと?」


 この騎士たち、まさかエリザヴェートが殺ったとでも言たいのか。

 騎士殺しとはそういう意味なのかだろうか。

 だとしたらその発想は無かった。

 そういう見方もある、か。

 可能性として考慮すらしていなかったな、俺は。


「それを貴様に教えてやる筋合いはない……!」


 酔いが回って抑制の効かなくなった声と動きで、騎士のひとりはテーブルを叩いた。グラスや皿がガタガタと揺れ、からの酒瓶が床に落ちて砕けた。

 俺はへらり、と笑って頭を軽く下げて手を合わせた。


「そこをなんとか。ヴィクトール王子殿下から、城内での情報収集の許可は得ているんだ」

「……ほう?」


 騎士三人が意地悪くわらった。

 あらぁ? なんか余計なこと言ったか俺。

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