第208話 社員食堂のような場所で

 食堂は王宮の外れの方――だと思われる――場所にあった。

 簡素なドアを開けると広大な空間に長机が並び、背もたれの無い丸椅子がズラリ。

 俺にとっては“社員食堂”のイメージが一番近い。


 ただし、一番奥のスペースだけは、家具の設えが一線を画していた。

 そこからこちらに視線を向けてくる連中は一旦無視しておく。


「ユーマ殿、食べられないもの等ございませんか?」

「無いよ。大丈夫。日替わり定食みたいなのがあればそれで」

「では、自分も同じものを」


 ルーカスが丁寧にアテンドしてくれる。

 城門で最初に会った時から本当によく気の付く男である。真面目だし。

 いっそスカウトしてやろうかと思うくらいだ。


「私は、ステーキ!」

「おいドロテア! 少しは遠慮しろって」

「駄目ですかぁ?」


 そんな上目遣いでわざとらしくおねだりしなくても、


「構わない。たくさん食べる女の子はいいと思うぞ」

「ほらね」

「何がほらね、だ」


 ルーカスはつっけんどんな態度でドロテアを遠ざけると俺に耳打ち。


「ユーマ殿、ドロテアを甘やかすとロクなことになりません」

「そうなのか?」

「そうなのです」

「何コソコソやってんのよー」

「な、なんでもない。ですよね、ユーマ殿」

「おっ、おう」


「じゃあ、私が注文してくるから!」

「ユーマ殿、ではこちらへ」


 と案内してくれるルーカスには悪いが、


「奥の席の方がいいテーブルと椅子じゃないか。背もたれもついてるし」


 ずかずかと奥へと向かっていく。ルーカスが「ユーマ殿!」と小声で止めてくれる。すまんな。君に迷惑がかからないようにするよ。なるべくな。


 席についているのは三人。

 揃って傷ひとつない綺麗な、且つ装飾過多な鎧を身に付けている。

 ニヤニヤ笑いの見下した目線。明らかに権力者の態度だ。それも程度の低い。

 だが悪いな。俺にこの王国の権威は通じない。恩恵に預かってはいるがそれはそれ。


 俺はテーブルに手をついて、口の端を歪めて見せた。


「いい素材を使ったテーブルと椅子だな」


 デザインセンスは趣味じゃないが、それはそれとして、


「ここ、座ってもいいかな?」

「なんだ、貴様」

「我々を王国貴族と知った上での物言いか?」

「不敬罪で斬って捨てるぞ」


 ははは。

 こっちから相手の領域に踏み込んでおいてアレだが、品の無い貴族である。

 こんな食堂の隅っこで踏ん反り返ってる時点でまあお察しではある。

 言葉選びにもセンスがないしな。


「どうもはじめまして。俺はユーマ・サナダ。エリザヴェート王女殿下よりとある任を頂いている者だ。情報収集に協力願いたい」

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