第207話 敵か味方か彼氏と彼女か


 考えごとの最中、ふとドロテアがこちらを見ているのに気付いた。

 含みのある視線だ。


「どうかしたか?」

「ユーマ……さんは、ヴィクトール殿下の敵なんですか?」


 つまりドロテアは第一王子の味方なのだろう。

 俺はどうかと問われると、現状では――


「――俺は王家に仇なすものの敵だよ」

「なら、いいですけど」


 ヴィクトールが王家に仇なすかどうかはまだ分からない。

 だから敵か味方か断言はできない。

 これ以上追及されると返答に困ってしまうところだった。


「ルーカス」

「はい、ユーマ殿」


 びしっ、と傾聴の姿勢を取るルーカス。真面目か。


「王宮勤めの人たちが集まるような場所ってあるかな?」

「そうですね、食堂なら誰かしらいるかと思います」

「案内してもらってもいいか?」

「はい、承りました」


 丁寧に一礼するルーカスを見て、ドロテアがはっとした表情を浮かべた。

 ん? なんか新情報かな?


「あっ、ふたりだけごはん食べに行くんですか!?」


 そっちかい。

 違うぞ。


「違うけど、まあそれもいいか。ドロテアも来るか?」

「奢りなら行きます!」

「食堂のごはんくらいなら奢るよ」


 情報料としては安いもんである。

 だがそれに苦言を呈する者がいた。

 ルーカスだ。


「いえ、ユーマ殿、ドロテアは仕事中ですので」

「あらま」


 真面目か。


「ルーカスだって仕事さぼってるじゃん」

「今日の当番は終わったんだよ」

「まあまあ、じゃれ合うなよ」

「じゃれてないですぅ!」/「じゃれていません!」


 息ピッタリじゃないか。仲良しだな。微笑ましいことだ。


「ドロテア、ちょっとだけ待っててやるから、君の上司に許可を取って来くるんだ。来客に王宮の案内を頼まれた、ってな」


 ドロテアの頭の上に「!」マークが見えた、気がした。


「はいっ」

「ユーマ殿、案内なら私だけでじゅうぶ……むぐっ」

「ルーカスは黙ってて! メイド長に伝えに行ってきます!」

「おう」


 ところで、


「キミタチ、付き合ってるの?」

「は?」

「いや、恋人同士なのかなー、と思って」

「ち、ちちち違いますよ! ドロテアとは幼馴染なだけで! いつもあんな感じなので放っておけないと申しますか……!」

「じゃあ嫌いなのかね?」

「……そ、そういうわけでは」

「その気持ちには早めに名前を付けてやるといいよ。オッサンからの助言アドバイスだ」

「はあ」


 つい若者をからかってしまった。反省。

 楽しい二人組に出会えた偶然に感謝しつつ、俺はドロテアの帰りを待った。

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