第197話 天賦の王子と転生の支配人

 彼は長身で、筋骨隆々というほどではないががっしりとした体形をしていて、すっきりとした輪郭に通った鼻筋の、絵に描いたような美丈夫びじょうぶだった。王家らしい威厳のある佇まいでありながら、威圧的ではない朗らかな態度。俺は、彼が王を名乗っても年若いこと以外に違和感を感じないだろう。


 それにしてもめっちゃ顔がいいな。

 天から二物以上与えられているらしい。

 死霊術師にかどわかされて異世界転生した俺とは神の寵愛のレベルが違うな。


(拐かすとは失礼な! 合意の上じゃろうが!)


 そうだったか? まあ、そうか。すまんすまん。

 尚も胸中で声を荒げる「ヤツ」のことはさておき――


「私はヴィクトール・ミゲイラ・シュトルムガルド。この国の王子です」

「ユーマ・サナダといいます。この国のとある場所で宿屋の支配人あるじをやらせてもらっています」


 ヴィクトールはふふっと笑った。


「やらせてもらっている。君の中ではそういった認識なんだね」

「営業の許可をいただけたことには感謝してます」

「あれについては、過去に発行したことがなかったので大いに揉めました」


 そうなのか、と振り返ると、赤の勇者は深く頷いた。


「ノヴァが頑張って大臣たちを説得したのですよ」

「それはまた。ご迷惑をおかけしました」

「礼ならノヴァと、そしてエリザヴェートに。私は追認したにすぎません」


 柔らかい表情の奥にあるだろう真意は見えない。

 やりにくい相手だ。

 イグナイトくらいあからさまな方が楽でいい。


 さて、腹の探り合いといこうか。

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