第155話 殺意の出所が行方不明

 俺は荒事は好みではない。出来ることなら話し合いで何事も決着したいと常々思っている。異世界こっちに来てからというもの、全くそうはなっていないのが誠に遺憾であるけれども。


「エリザヴェート様、失礼ながら兄妹仲はそんなにお悪いので?」

「ユーマ殿! 口が過ぎるぞ!」


 ノヴァが喚くが知ったことではない。安全保障上、知っておくべき情報だ。相手方の方針を見誤れば殺される。こんなところで死ぬ予定は俺にはない。


 俺が言い返すより先に、エリザヴェートはノヴァを視線で制し、


「よいのです、ノヴァ。ユーマ様の仰る通りなのですし」


 綺麗な形の眉をハの字にしつつ無理矢理笑っていた。


「恥ずかしながら普段兄上と私は言葉を交わすこともないほど疎遠なのです。兄上たちおふたりの仲も芳しくはありません。事あるごとに反目しあっております」

「でも親殺し、妹殺しをするほどでもなかったのでは?」

「勿論です」


 ならなんでエリザヴェートに暗殺者が差向けられる? 

 王子を後押しする権力者が露払いしたか、それとも先走った結果か?

 

 ……何を判断するにも情報が足らん。


 だが、ここでまごついていると何もかも手遅れになりそうな予感だけが、俺の中にある。


(行くしかあるまいて。魑魅魍魎の蠢く王都へ)


「ヤツ」が内心でそう囁いた。

 ま、そうなるわな。ちっとも気は進まないが。

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