第154話 信を寄せるに足る人物は誰か

「……あの日の夜、わたくしの居室に暗殺者が侵入してきました」


 エリザヴェートはそこで言葉を区切り、身体を震わせた。王都という、彼女のこれ以上ない本拠ホームにあってすら命を狙われる状況。異常事態といって差し支えない。


「その暗殺者は夜番やばんの近衛騎士が命を賭して退しりぞけてくださったのですけれど、最早もはや留まり続けるのは愚策と判断いたしまして、王宮を抜け出した次第でございます」


 その判断は妥当だ。


「エリザ様、その近衛騎士は」

「……デニスです」

「あれほどの手練れが後れを取るとは」

「申し訳ないことをしました」

「いいえ。王族の盾たるは騎士の本懐。どうかエリザ様はお気になさらず」


 ノヴァはそれだけ告げて目を伏せた。


「私は王族にのみ伝えられている抜け道を用い、王宮を抜け出したのでございます。そののち、偶然通りがかったクラリッサ様にお願いしてこちらまで連れてきていただいたのです」


 クラリッサもしれっと巻き込まれてないか?

 王都で見られてなければいいが、こちらで注意を払っておくべきか。


「当館へはノヴァに会いに来たのでしょうか?」

「はい。私が心を許せるのは最早ノヴァしか残っておりません。加えて、ユーマ様のお話を伺っておりましたので」


 あわよくば使い倒してやろう、と思っていたわけだ。そうまでしなければならない所まで追い詰められているのか。俺の想定以上に状況が悪い。悪すぎる。ふたりの兄王子とやらとエリザヴェートとの兄妹仲は、命を狙われるほど険悪なのだろうか。


 だとすると話し合いの余地もなさそうだが、さてどうしたもんか。

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