第150話 1か100でしか加減できない

 俺はエリザヴェートを従業員の休憩室に通すことにした。王国の王位継承者の「お願い」とやらを共用スペースで話す気には到底なれない。人払いを徹底するしかあるまい。


「ナターシャ、しばらく休憩室に誰も近づけないでくれ。従業員もだ」

「了解しました。お任せください!」

「それとフロントスタッフのコントロールをしばらく任せる」

「はいっ!」

「あと、申し訳ないんだが……クラリッサの相手を少しの間、頼んでいいか?」

「あははっ。わっかりましたー!」


 これでいい。


「アイは俺と来い」

「承知しました、ユーマ様」


 フロントの裏にある事務所の更に奥にある、さして広くもない休憩室。

 あるのはスチール棚と簡素なテーブルと椅子。

 テーブルのこちら側に俺とアイ、あちら側にエリザヴェートとノヴァ。

 ノヴァはあちら側、だな。そりゃそうだ。王国所属の勇者殿なのだから。


「さて、お話をお伺いしましょうか、エリザヴェート様」

「どうかエリザと呼んでくださいませ。親しい方々はそのように呼びますので」

「はは、親しくなった折にはそのようにさせていただきます。それで?」


 俺が促すと、エリザヴェートは真摯な眼差しで俺にこういった。


「ユーマ様、どうか我が王国に御助力をいただけませんでしょうか」


 依頼内容がざっくりしすぎだ。

 助力とだけ言われてもなあ。

 ちっともわからんぞ、と口に出すわけにもいかない俺は、赤の勇者殿に困惑の視線を投げてやる。ノヴァはすまなそうに目を伏せた。


「エリザ様、慎重なのは宜しいかと存じますが、ユーマ殿は信用に足る御仁です。もう少し具体的にお願い致します」

「申し訳ございません。こういった事には不慣れなもので」


 交渉ごとに長けた姫君も中々嫌なので、そこはまあいい。

 エリザヴェートは小さく咳ばらいをして言い直した。


「端的に申しますと、王位継承権を巡る争いが起きております」

「……マジでか」


 眩暈めまいでくらくらしてしまう。

 この姫様、1か100でしか加減が効かないのだろうかね……。


 そこまで突っ込んだアレは聞きたくなかった、と思うのは俺の我儘か。

 どうしたもんかね。

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