第149話 機嫌がいいのかわるいのか

「――おそれいりますが、少々お待ちいただけますか?」


 お姫様の話とやらを聞く前に、やかましい商人娘をおとなしくさせる必要がある。俺はエリザヴェートに断りを入れて、仏頂面のクラリッサの前に立った。


「おい、クラリッサ。手短にいこう。幾らだ」

「はあ? 何がだよ、オッサン」


 オッサン言うな。


「幾ら払えばいい?」

「砂糖の代金かよ」

「それもあるけどな。エリザヴェートあ の 子から金、貰ってないんだろ。俺が立て替えてやるから、幾らか言ってみろ」

「ちっ」


 舌打ちするな。

 相変わらず態度の悪い娘である。


「金を払うって言ってるのにどういう態度だソレは」

「知るか馬ァ鹿」


 なんでそんなに不機嫌なんだコイツ。ワケわからんな。


「ついでに口止め料もだ」

「あぁ? 口止め料だ?」

他所よそに漏らさないでくれ」


 俺が頼むと、クラリッサは苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 彼女はしばらく俯いて黙り込んだ後、やや躊躇いがちに口を開いた。


「……あのさー」

「ん?」

「そんなこと……、いちいち金貰わなくても守ってやるっつーの」


 そのリアクションは想定外だ。ちょっとびっくりした。

 うっかり頭をポンポンと撫でてしまった。


「やけに優しいじゃないか。今日に限って。でも助かるよ、ありがとな」

「っるっせーよオッサン!」

「痛てえ!」


 踵で足の甲を踏むのはやめろ。

 骨でも折れたらどうするんだ。

 妙にしおらしいと思ったらコレである。本当にワケがわからん。

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