第141話 親睦と鍛錬の組手

「ふっ!」


 アイの鼻先をナターシャさんの拳が掠めていきます。

 左、右、左。

 アイが全て躱し、前に一歩踏み込むとナターシャさんは大きく後退バックステップ。それは直線的な動きではなく、円形の闘技場を有効に使うために弧を描くように。


「上達が見て取れますね」

「ありがとう、ございますっ!」


 アイは歩いてナターシャさんを追います。

 完璧な歩法とは――

 正中線をブレなく、頭を上下させず、滑るように。

 ただ、歩くこと。


 追います。


「ひいっ」 

「恐怖は動きを鈍らせます。ナターシャさん、その恐怖を飼い慣らしてください」

「そんなこと言われましても!」

「ナターシャさんの魔法は退がっては活かせません」


 どうあれ接触しないことにはナターシャさんの力は十全に発揮されません。

 そのことは本人が一番よくわかっているはずです。


「前へ。どうぞ」

「やあぁっ!」


 後退から一転、飛び込んできながら突きを繰り出してくるナターシャさん。私は僅かに横移動。両掌で彼女の手首と肘を引っ掛けるようにしてぐるりと手を回しました。ナターシャさんは自身の勢いと肘を極められた際の反射で吹き飛びました。


 背中から地面に落ち、土煙が上がります。


「痛ったぁ……」

「思いきりの良さと自棄やけを混同しないようにしましょう、ナターシャさん」

「はい。ありがとうございました」

「ありがとうございました。では次、リュカ。来なさい」

「ジブンもデス!?」


 すり鉢状の闘技場の上から見物していたリュカが驚嘆しました。


「リュカも自分の身は護れるようになりなさい。シュラも一緒にかかってきて構いませんよ。なお、逃げたら夕飯抜きです」

「うにゅー! アイは鬼デス! 悪魔です!!」

「いえ。ゾンビですが、何か」

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