第117話 他者を自分に同調させようとするほど馬鹿げたことはない

「クラリッサさんの居場所ってわかりますか?」


 俺がオバサンにそう尋ねると、彼女は口をひん曲げてわざとらしく肩を竦めた。


「果物屋で情報を買おうってかい。えェ?」


 ちっ。商売上手なオバサンだな。


「じゃあそこの果物を、ふたつくれ」

「なんだいふたつきりかィ。しみったれてるねェ」


 アイは本来食わないのを、体裁が悪いからふたつ買ってるんだぞこっちは。


「ほらよ、賤貨で20だ」


 むむ。賤貨の感覚がわからん。銅貨未満ということしか把握してないぞ。

 なので財布からざっくり摘まみ、オバサンに渡す。


「足りるか?」

「こりゃあ多すぎだよォ」


 あらら。まあいいか。


「情報料だよ、取っといてくれ」

「何者なんだいアンタァ?」

「しがない宿屋だ。それでクラリッサさんの居所を教えてくれないか?」

「ちょっと待ちなァ」


 オバサンは大きな体を揺すって笑うと、後ろを振り返ってデカい声で叫んだ。


「クラリー客だよォ!」

「クラリーって呼ぶなつってんだろババア!」

「誰がババアだクソガキが!」


 おおう、喧嘩始まったぞ。客前で何やってんだ。

 つうか近くにいたのかクラリッサ。


「ニアピン賞でしたね、ユーマ様」

「だからアイはどこでそういう言葉を覚えてくるの……」

「遺失物保管庫の書籍等からです、ユーマ様」

「そういえばそうだったな」


 さて、ようやく町長推薦の行商人クラリッサとのご対面だ。

 などと思っていたら、


「なんだテメー、何見てんだ? 見物料払えやアアン?」


 また物凄い口の悪いのが出てきたな。


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