第116話  商売で重要なのは道徳を守るということ

 流石にイロハのイから教えるのは手間がかかりすぎるので、宿屋の主人達には「自分の宿屋の強みを考えること」と「それをどうやって消費者に知ってもらうか」についてしっかり考えて行動してみろ、と言っておいた。まずはトライ&エラーをさせる。俺があれこれ指図できないではないが、それはただの思考放棄だ。思考放棄は他者依存に直結する。依存などされてたまるか。


 とはいえ、折角の繋がりなので連中とは定期的に会合を持つことにしておいた。


「じゃ、帰るか」

「本題が終わっておりません、ユーマ様」

「あっ」


 そうだった。砂糖を買いに来たんだった。


「……」

「……」

「……ではまいりましょう」


 アイに気を遣われてしまったぞ……。

 メイナード町長が紹介してくれたのは露店商だった。

 ざっくりした地図に大まかにマルがつけられていた。

 名前はクラリッサ。女性だろうか。


 あまりガラの良くない通り沿いに屋台やら露天商やらが軒を連ねている。

 客は町の人だったり旅装の人だったり冒険者だったり色々だ。

 地図の印のあたりにデカい屋台があり、果物を売っている大柄なオバサンがいた。


「すんません」


 と、声を掛けると、すごい迫力の笑顔が返ってきた。


「はいよォ、いらっしゃい! なんにするねぇ?」

「や、買い物ではなくて」

「冷やかしなら他所ヨソでやってくんなァ」


 笑顔消えるの早いな!


「あなたがクラリッサさんでしょうか? 俺はメイナード氏の紹介で」

「はァ?」

「ですから、俺はメイナード氏の紹介で」

「あたしゃクラリッサじゃないよォ」


 あれっ? じゃあこのオバサン誰?

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