第99話 支配人不在の名称決定会議

「恥ずかしくて引っ込んでしもうたユーマに代わりが仕切らせてもらうとしよう」

「ただちにユーマを出さんか、“冥府の窓”よ」

「ド田舎精霊こそ引っ込んどれ!」

「よく吠えた、魔女如きが」

「表に出るがよいわ。相手してやる」


「――話が進みませんので、僭越ながらアイが進行を務めさせていただきます。何卒ご容赦を」


「……う」

「……む」


「あのー」

「ナターシャさん、どうぞ」

「元々この宿屋ってなんて名前だったんですか?」

「ユーマ様曰く、ビジネスホテルサナダエキマエテンと称していたそうです」

「全然意味わからないですね!」


「というわけで皆様、当館に相応しい名称をご提案ください」


「サナダの宿はどうですか?」

「安易じゃのう、魔女見習いよ」

「ユーマの宿はどうデスヨ?」

「おう、いい案じゃな獣人の娘よ」

「……えっ、なんですかこの露骨な依怙贔屓えこひいき感!」


「ユーマ殿はホテルという呼び方にこだわっていたようだ。ホテル、という名は遺した方がよいのでは?」

「ノヴァさんの仰る通りかと」

「ホテルとは宿屋の意味で良かったかや?」

「そのようです」

「となると、ナントカホテルとするかホテルナントカカントカとするか、という話よな」


「“風”様の真名をつけるのは……やっぱり駄目デスヨネ」

「おうおう、愛い奴じゃの」

「駄目に決まっておろうが! このが許さん!」

「窓は黙っておれ。余の真名は流石にのう。地名くらいにしてはどうじゃな」


「地名といいますと、ナターシャさん、この山の名は?」

「ウェントリア山ですね」

「ド田舎精霊の名前ほぼそのままではないか! 認めんぞ!」

「創造主様。代案がございましたら承りますので、どうぞ」


「サナダホテルにせよ。元の名を遺してやるべきじゃ」

「何も思いつかんだけなのにもっともらしくほざきよるわ」

「なんだと!?」

「なんじゃ!?」


「お二人とも、おやめくださいませ。当館が崩壊してしまいます」


「むむ」

「ぬう」


「それでは皆様のご意見を総合しまして、サナダホテルウェントリアとしてはいかがでしょうか。――異議は、ございませんね? それでは決定ということで」

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