第100話 当館へいらっしゃいませお客様

 はい、ということでね。

 ついに本格的に運営開始しましたね、サナダホテルウェントリア。

 どうか名前だけでも憶えて帰ってやってください。


 ――まさか異世界こっち版のホテル名称を付け忘れるという不手際をカマしてしまうとは、穴があったら入りたい。無くても掘って入りたい。そんな気分で半日ばかり引きこもって過ごした。


「その間にホテル名称が決まってしまうとは思わなかった」

「ご不満でしたか、支配人」

「いや全然。俺の方こそ申し訳ない」

「お気になさらいませんように、支配人」


 俺は今、フロントカウンター内で、正面を向いたまま目も合わせずに小声でアイと会話している。いわゆる待ちの態勢だ。


 待つことしばし、外で送迎馬車(馬ではない)の停まる音がした。


「アイ」

「はい」


 アイが指示を飛ばすと玄関の自動ドアが開いた。元・自動ドア――正確を期するなら手動ドアと呼ぶべきだろうか。ドアの両隅にカーテンを増設して骸骨兵が隠れられるようにしてある。アイの指示を受けた彼らが手動でドアを開け閉めしてくれるという手筈なのだ。


「うおっ!?」


 お客様が驚きの声をあげる。

 俺は笑みをこらえつつ、アイとタイミングを合わせて一礼した。


「「いらっしゃいませ」」

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