第98話 ホテル運営の準備は万事整った――

 俺は、ホテルのさして広くもないロビーに従業員と関係者を集めた。アイと骸骨兵ははじめからだが、まあ随分と増えたもんだ。俺の左隣にはアイがいる。右肩にはウェントリアスが我が物顔で乗っかっている。


「ウェントリアスは祠を不在にされてよろしいので?」

「仔細無い。ここも余の守護領域よ。今日は門出の日あろう。余が言祝ことほいでやる」

「それはどうもありがとう」

「ユーマ様」


 アイが半歩俺に近づいて囁く。


「皆揃っておりますので、そろそろお言葉をお願いします」

「わかった。って、アイ、ちょっと近くない?」

「そんなことはありません」


 いや、肩が触れてますが。


「くっく、傀儡くぐつよの。妬いておるのか」

「なんのことでしょう、守護精霊様」


 妙な居心地の悪さを感じて俺は一度身じろぎした。

 そして咳払い。


「傾注。これより当館の支配人ユーマ様よりお言葉があります」


 と、アイが告げた。

 全員の視線が俺に集まる。熱量を感じるのは気のせいか。


「お疲れ様です。支配人のユーマです。お蔭様でホテルとしてやっていく準備が整いました。客室と共用スペースの清掃は担当のスタッフがいつも清潔かつ綺麗に整えてくれています」


 骸骨兵の清掃チームがカタカタと骨を鳴らした。


「屋上の貯湯槽の湯温調整にはナターシャが貢献してくれた」


 ナターシャが笑顔になる。


「最低限の電力も太陽光パネルで確保できてる。朝食食材の在庫は冷凍庫に積んである。地元の守護精霊サマともご覧の通り穏便な関係を構築できた」


 ウェントリアスが俺の頭をぽすぽす叩いた。やめろ。


「お蔭様で道路工事も無事終了」


 工事に当たった骸骨兵がカタカタ鳴った。


「馬車の用意と訓練も概ね良好」


 リュカがきゃっきゃっと跳ねている。シュラ達は流石に外である。


「営業許可証も仮ではあるがシュトルムガルド王国から発行してもらった」


 ノヴァがコクリと頷いた。


「フロントシフトもアイと俺を中心に回す段取りだ」


 アイが目を伏せてきっちり三十度の角度で会釈をした。


「準備はできた。今日からこの――」


 この、ええと。


「――ユーマよ」


 肩の上でウェントリアスが言った。


「この宿屋の名は何と言うのかや?」

「決めてなかった」


 準備整ったと思ったら整ってなかった。

 俺に集まる全員の視線が急激に冷えた。誠に申し訳ない。

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