第49話 謎の尾行者との高度な駆け引き、とかは無い

 細かい駆け引きをするほどでもないな、と思った俺はその場で足を止めた。

 背後から伝わってくる動揺の気配。というか「うにゃっ」とか聞こえてきた。

 もう終わりにしよう。

 俺はぐるりとUターン。

 じっと獣耳の少女を見据えた。


「ななななんデスカ?」

「俺たちに何か用か?」

「用はないデスヨ?」


 可愛く小首を傾げる獣耳の少女。

 可愛くても追及の手を緩めてはいけない。


「じゃあ、たまたま進行方向が一緒なだけか?」

「そ、そうデス!」

「このままだと山に入っていくことになるけど」

「ジブンも山に用があるデス!」


 案外粘るな。


「ほう。どんな?」

「えーと、えーと」

「どんな用事が?」

「うにゅー」


 獣耳の少女は涙目である。

 横のナターシャが俺をつついてくる。


「あの、ユーマさん、可哀想だからそろそろ許してあげたらどうですか?」

「いやここからが楽しいんだろうが」

「そういうところが怖いっていうんですよ」

「……」

「何ショック受けてるんですか。そんな顔しても駄目ですよ。――ごめんねー、このおじさん怖かったよねー」

「おじさん言うな。雇用主に向かって」


 ナターシャは華麗にスルー。どんどん図太くなってくるなこの娘も。


「ううぅー怖かったデスヨー」

「ですって、支配人?」

「すまんな。怖がらせるつもりはなかったんだが」

「うにゃー!」

 

 少女は耳を逆立てて威嚇してくる。怖くはない。というか微笑ましい。

 大体見当はついているが、俺は念のため尋ねてみた。


「君は一体なんだ? なんで俺たちを尾行している?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る