第28話 盗賊と名乗る者に用心は不要、聖人君子を名乗る者にこそ用心が必要だ

 翌日の朝っぱら、俺とナターシャはアイに見送られてホテルを出発した。

 昼までには麓の集落に到着したいところである。


「じゃ、麓まで道案内よろしく。ナターシャ」


 ナターシャを連れて行く理由のひとつがコレだ。もうひとつ理由は異世界こっちの常識を知らない俺の辞書代わり。検索エンジンが無いからな異世界には。


「あの、支配人……さん」

「あ? ホテルの外は名前呼びでいいぞ」

「お名前聞いてないんですけれど」


 おっと、そういえば名乗ってなかったか。


「悪い。誠に失礼した。俺は真田悠馬という。あのホテルの支配人をやっている。改めまして、よろしくお願いします」

「サナ・ダユーマさん? ですか? 珍しいお名前ですね?」


 そうじゃない。惜しい。いや、惜しくない。



「違う。区切り方が違う。悠馬ユウマだ。呼ぶ時はユーマでいいよ。真田サナダは姓――ああ、家名だ」

「えっ! もしかしてユーマさん、貴族ですか?」


 家名という単語にナターシャは少々過敏な反応を示した。なんだろうか。


「違う違う。ええとだな、俺のいた国では姓があるのが当たり前なんだよ」

「どんな国ですかソレ一体」


 異世界転生これまでの粗筋を説明するのはめんどくさいな。


「その話はまた今度だ。昼までには着きたいんでな」

「そうですね! じゃあ行きましょう! どんどん行きましょう!」


 あからさまに怪しい感じになってしまったな。

 ナターシャは気にしてないみたいだし、まあいいか。

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