第37話 第一回、俺と「ヤツ」の脳内会議

「ナターシャ、クマの動き見張っておいてくれ」

「は、はい! ユーマさんは?」

「俺はちょっと作戦タイムだ」


 ナターシャに言い置いて、俺は狭い部屋の角の壁際に移動した。

 目を閉じ、そして小声でこちらから「ヤツ」に呼び掛ける。


「おい、ミラベル」

(ユーマに名前を呼ばれるのもはじめてじゃのう)


 そういえばそうだったか。

「ヤツ」の声音は機嫌がいい時のそれだった。

 こんなことで喜ぶのか。

 死霊術師ネクロマンサーはよくわからんな。


(して、何用か?)

「わかってるだろ。クマだよ、クマ。クマ退治。なんかいい手ないか? 骸骨兵スケルトンウォリアーを出す以外の目立たない方法で」

(ユーマ自身が戦ってはどうじゃな?)

元の世界あっちの俺の国は比較的平和だったんでな。俺は戦うのはからっきしだ」


 喧嘩なんぞ中学生の時に橋口くんと殴り合ったことがあるくらいだ。橋口くん、元気だろうか。などと卒アル見るみたいに思い出に耽っている場合ではない。


(ふむ。では儂が鍛えた魔剣を貸してやろう)

「魔剣? どんなのだ?」

(稀代の剣の達人創った骨刀でなぁ、身体が勝手に剣を振るうんじゃ)

「うん、それ完全に妖刀の類な。体の自由を乗っ取られるのはミラベルだけで十分過ぎる」

(ほう、ほうほうほう。ようやっと儂のことを受け入れる気になったか)

「なってませんけど」

(ちっ。つれない男じゃなぁ)


 舌打ちするな。受け入れてたまるか。

 それはさておき妖刀は論外として、


「お前、骸骨兵の統制コントロールってどれくらいの距離が空いててもいけるんだっけ?」

(今ホテルに置いておる連中は遠くて無理かのう。あれらは小娘アイの制御下にある。この集落の半分くらいの距離であるなら精密に制御できると思うが?)


 なるほど。


「魔剣や妖刀じゃなくていいんで、小さいナイフみたいな骨の武器は出せるか?」

(む。ユーマ、お主何を考えておる?)


 まあ、ちょっと力を貸してくれ。

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