第36話 クマさんの、することが(ひどくて)、自警団、お逃げなさい

「クマってお前……おお、クマだ。クマだな」


 ナターシャの隣に行き窓から三差路を覗いてみると確かにいた。

 クマだ。

 生で見るのははじめてだ。

 でもちょっとサイズ感おかしくないか?

 頭が二階の窓あたりまで届いてないかアレ。

 デカすぎる……。


「あんなクマがここには頻繁に出没するのか?」

「いえ、私は今まで見たことないです。あの、ユーマさんのホテルに向かう冒険者が増えて裏の山でのクマの縄張りがズレてしまったのかもしれませんね」

「それは大いにありうる。俺のせい――いや、冒険者バカどものせいか。ちなみにああいった獣が山から下りてきた時、誰が対処するんだ?」

「普通は村の自警団や守備隊が駆除に当たりますね。自警団っていってもただの集落の若い人ですけど」


 元の世界あっちでいう猟友会みたいなものだろうか。警察ってわけじゃなさそうだ。


「あ、出てきた」


 わらわらとクマを取り囲むのは五人ほどの青年たち。

 各々、槍や弓で武装している。

 遠間とおまからチクチク削っていく腹積もりらしい。


 けど、クマがそれに付き合ってくれるとは限らな――


 ――ほらな、殴られた。吹っ飛んだ。動かなくなったぞ……。

 大丈夫かね。

 あ、二人目も逝った。

 そんで残りの奴ら武器捨てて逃げだしたぞ。


「おい、ナターシャ。駄目っぽいぞ」

「はい、ユーマさん。駄目っぽいです」

「こういった場合はどうすんの?」

「こういう場合は冒険者ギルドに依頼が入って冒険者が退治すると思います」


 まあそうだろうな。そのための冒険者だろうし。

 でも、


「さっき大量の冒険者と山ですれ違ったよな俺たち」


 あ、という顔をするナターシャ。


「もしかして今この集落にいる冒険者って、私とユーマさんだけですか!?」

「いや、俺は冒険者じゃないぞ。ホテル経営者だ」

「そんなあ! 私ひとりであのクマとやれって言うんですかあ!?」


 厳密に言えばナターシャも冒険者なんだよなあ。今はホテル従業員だ。


 そもそも俺もナターシャも率先してクマ退治する義理は無い。ただ、あのクマを倒すことができれば、ひょっとすると集落ココの偉い人に貸しが作れるかもしれん。リスクとリターンを勘案してみようか。

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