第16話 住所不定無職への対策よりも優先すべきこと

 冒険者三人から剥ぎ取った装備品を早速検分する。


 まずは武器だ。

 ナイフと直剣、そして杖。

 俺が見てもさっぱり分からんのだが、


(刃物は安物じゃな。魔法がかかっていたりもせんし)


 俺の中の「ヤツ」が判別してくれている。

 こういう時には便利なやつだ。


骸骨兵スケルトンウォリアーにでも持たせとくか」


 革鎧と鉄鎧も同じく安物だったのでこれらも骸骨兵に装備させることにした。今後のことを考えると少しでも戦力を整えておいた方がいいだろう。


(杖はまあまあのシロモノじゃな。使い手がおらんが)


 ならとりあえず倉庫に放り込んでおこう。


(冒険者としては並み以下の装備だのう)

「冒険者、ねえ」


 遺跡でお宝を発掘――その行為は盗掘ではないのだろうか――したり、依頼事をこなして報酬を得たりする、いわゆるなんでも屋を総称して「冒険者」と呼ぶそうだ。ひとつの街に拠点を持つ者もいるが、街から街へ流れていく者も多いらしい。俺からすれば住所不定無職の自由業にしか思えない。端的にいうとならず者。つまり外角低めアウトロー


「今後もああいう連中が来るんだろうか。だとしたら迷惑極まりないな。宿泊してくれるなら大歓迎だが」


 宿泊とかいう以前の問題としてダンジョンって言ってたよな、あの連中。俺は、この壮大な勘違いを正すところからはじめないといかんのかひょっとして。ほっとくと第二波第三波が来そうな勢いではあるし、喫緊の課題であるといえる。


 どうしたもんかなあ、と思っていると、アイがロビーの片付けをしているのが目に入った。心なしか元気がないように見える。人工の疑似生命に元気も何もあったもんじゃないだろうが、気になったものはしかたない。


「アイどうかしたか?」

「はい。いいえ、支配人。なんでもありません」


 アイは素っ気ない。

 だが俺は、剣がぶっ刺さって壊れたロビーの調度品の後始末をしているその手が時々止まっているのに気が付いてしまった。ああ、さっきの戦闘で館内の備品を壊したのを気にしてるのか? あれは不可抗力だろうに。生真面目か。


「ええと、そうだな。アイ、なんかそこのスペースに置くオブジェ的なやつ作ってみてくれ」

「……承知いたしました、支配人」


 意外にもアイは僅かに安堵したような表情を浮かべた――気がした。


「屋内の戦闘には注意しないといけないな」

「はい。次からは剣を振り上げる前に制圧いたします」


 ふんす、とアイが鼻を鳴らして両手を握りしめ頷いた。

 ちょっと元気になった、か?

 その表情からはよくわからないが。


(くっくっく。お優しいことじゃのう)


 俺の中で「ヤツ」が笑ってやがる。うるさいよ。黙っててくれ。

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