第9話 骸骨たちが従業員になりたそうな目で俺を見ている

 ずらり並んだ骸骨たちは、俺が動くたびに視線を移してくる。がらんどうの無数の眼窩がんかに見詰められるのは正直居心地が悪いどころの騒ぎではない。


(フフフ、感謝するがよい。人手を用意してやったぞ。儂凄かろ)


 だが、俺の中の「ヤツ」はひとり悦に入っている。


「人手って、全部骸骨じゃないか!」

(だって儂、死霊術師ネクロマンサーじゃもの)


「ヤツ」め、居直りやがった。

 ところで、


「昨日の今日でこれだけの数の骸骨をどうやって」

(それはだなあ、ユーマが寝とる間に借りてちょっと山を下りて骨を調達し)

「人が寝てる隙に何してやがるお前!」

(おおう、そんなに怒らんでも。我俺の仲ではないか)


 そんな仲じゃない。なんか朝、身体がダルいと思ったらそういうことか。


(ユーマが人手が欲しいと言うから良かれと思ってじゃなぁ)


 思わず舌打ちを漏らしてしまう。

 これ以上済んだことをどうこう言っても意味はあるまい。


「で、この骸骨、俺の言うこと聞くのか?」

(無論。儂の骸骨兵スケルトンウォリアーは優秀じゃからして)

「じゃあいいか。人件費がかからないところは素晴らしいな」

(ふっふ、確かな満足を提供する。それが儂の死霊術ネクロマンシーよ)

「調子に乗るんじゃあない。あと二度と勝手に俺の体を使うな。絶対だ」


 ――異世界生活2日目、俺は骸骨百体を仮採用したのだった。

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