第一章

第1話 社長になって俺は死んだ。「ヤツ」に会って転生した

 親父が急逝した。

 だから、俺が三十歳で会社を継いだ。

 といっても小さな田舎のビジネスホテルだ。


 そんな田舎にも競合他社は当然存在するし、その競合他社が大手チェーンホテルだったりもする。


 俺はやれることは全部やった。やり尽くした。

 でも駄目だった。

 抗いきれず、社員はひとりまたひとりと俺の前から姿を消した。

 最後に残ったのは俺と、多額の負債だけ。


 俺は、全てが憎かった。許せなかった。


 俺に会社を押し付けた親も。

 真っ先に逃げ出した役員連中も。

 傘下に入れば生かしておいてやる、とのたまった競合のチェーンホテルのマネージャーも。


 そして何より、


 結果、俺は怨嗟と苦悶にまみれて死んだ。

 死因は過労による心筋梗塞。



 ――死んだ俺は、暗い闇の中で「ヤツ」に出会った。

 俺の怨念を嗅ぎ付けた「ヤツ」は甘い言葉を囁いた。


 今ならやり直せる。

 一からの出直しとしよう。

 異世界こちらに来ればそれが叶う。

 儂が力を貸してやる。

 だからその未練もろともに、こちらに来るがよかろう――


 死の淵どころか死の向こう側にいた俺は、まんまとその口車に乗せられた。

 俺の精神の深いところに今も「ヤツ」は巣食っている。

「ヤツ」に呼ばれて、俺はこのとやらに転生を果たした。

 それも俺の未練の塊である――このホテルごと、だ。

 

 ……異世界このせかいで一からの出直し、か。

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